ナポリっ子の「着こなし哲学」を聞いてみました
こんにちはファッションエディターの池田保行です。いつもVESTAのお客様の着こなしをご紹介しながら、それぞれのファッション遍歴や着こなしのこだわりをご紹介していますが、今回は特別編として、この方をご紹介したいと思います。
イタリア・ナポリのD’ELIA(デリーア)社、七代目当主のアルフォンソ・ヴィティエッロさんです。
デリーア社はヴェスビオ火山の南西麓にあるトッレ・デル・グレーコという街で、230年を越える歴史をもつ老舗のジュエリーメーカー。真珠、珊瑚、カメオの製造で世界中でビジネスをしている企業で、VESTAのマネージャー北川さんとも旧知の仲。日本に出張されてきたときは、北川さんが通訳として商談のお手伝いをされています。
デリーア社HP(注:音が出ます)
アルフォンソさんは生粋のナポリ人。面長・タレ目・眼鏡というキャラクターは、雑誌LEONの表紙でお馴染みのナポリ人、パンツェッタ・ジローラモさんとか、同じナポリのシャツブランドのバルバの社長、ラファエッレ・バルバさんと同じ系譜の顔という印象です。
7代目というように、D’ELIA社の創業は1790年。当時からカメオを彫る工房を経営していたそう。そのあたりのことを、以前、記事にまとめていましたので「カメオって何?」という方は、ぜひご一読を。
今回は、そんなアルフォンソさんの着こなしを伺うことにしました。アルフォンソさん、意外と小柄で身長は165cmぐらいでしょうか。60歳になったばかりだそうですが、年齢の話しをすると眉をひそめるので、どうもあまり言ってほしくないようです。そこで「良いジャケットですね。オーダーですか?」と服の話しを振ってみたところ「ジャケットをオーダーしないヤツなんているのか?」と笑って返されました。さすがナポリ人。
「スーツは特別なときだけ着るもの。普段はジャケパンだね」というように、ジャケットとパンツはセパレートがアルフォンソの定番スタイル。ジャケットはスティレラティーノのオーダーメイドでした。このブランド、ご存知の方は多いと思いますが、ナポリの伝説・ヴィンチェンツォ・アットリーニの3人の息子の長男が手掛けているブランドです。
ちなみに以前、スティレラティーノのオーナーのヴィンチェンツォにインタビューしたことがあります。「私の服を着ると10歳若返るんだ」と言ってたのですが、なるほど若見えしたい大人の男性が愛するブランドなのでしょう、アルフォンソも年齢の話しは、お嫌いそうでしたから。
シャツはフサロ・アントニオ、ネクタイはウルトゥラーレ、パンツはカサルヌォヴォの職人が仕立てたものだそうで、見事にナポリ周辺の地産地消。銀座のテーラーで仕立てたジャケットに柏のシャツ、ネクタイは浅草で、パンツは川崎といったところでしょうか。シャツは白、パンツはグレーよりベージュを選ぶというのもアルフォンソ流のこだわりだそう。
ちなみに若い頃の趣味は乗馬。エエとこのお坊ちゃんだったのですから、当然といえば当然ですが、障害競技を20年以上も続けられてきたそうです。昔飼ってた愛馬は、乗らなくなってすべて寄付してしまったとのことですが、ジャケットのラペルピンにさりげなくゴールドの馬が飾られているなど、パーソナリティを明らかにするアクセサリー使いはお見事でした。最近はスキーをされてるそうですよ。
この日の靴はチャーチのチェットウィンド。内羽根のウィングチップというセレクトは、カジュアルだけどエレガントを忘れない紳士の足元らしいものでした。「若い頃はロセッティとか履いてたんだけど、いまは英国靴が多いね」とのこと。ロセッティとは、イタリアの老舗靴で、それこそチャーチやアルマーニなどとのもコラボしていた有名ブランド。最近はあまり名前を聞かれませんが、しっかり押さえるところは押さえてたご様子。
で、腕にはカルティエの「ラブブレス」。はい、押さえるところはしっかり押さえていらっしゃるわけです。
左腕にはロレックスのオイスターパーペチュアル。世界初の防水時計を選ばれているあたり、珊瑚や真珠を取り扱う、海への敬意の現れともとれますし、東京出張中につき実用性を重視されているのでしょうか。ブルーの文字盤がきれいですね。
フレームレスの眼鏡はフランス製だそうですが、ブランドは忘れてしまったそう。いつもはドイツ製のチタンフレームを愛用されているとのことで、生産国で覚えているあたりインターナショナルなビジネスマンだなぁという印象でした。
アルフォンソさんに、若かりし頃のカジュアルスタイルについて伺ってみると、ベルボトムのジーンズにフルーツオブザルームのニット、ティンバーランドのブーツなど、アメカジにどっぷりだったようで、そのあたりも時代をよく表しています。同世代の方も共感されるのでは。昨年公開された『トップガン マーヴェリック』で主演したトム・クルーズと同い年ということもあり、MA-1にジーンズ、レイバンのティアドロップというスタイルもされていたとか。私、その頃18歳で予備校生でした。懐かしい。
パイロットに憧れて士官学校に進むも、視力が足りずに諦めたとか。当時、伯父が社長を努めていたデリーア社に入社して営業畑からコツコツと地道にビジネス街道を歩んで来られました。いまも年に数回、来日されて大手百貨店などと商談されています。VESTAさんにも、いくつかサンプルが置かれていますので、ご覧になりたい方はご一報を。カメオのオーダーメイドや、シルバー&ターコイズのジュエリーなど、バリエーションも多彩です。